| 昔といっても1960年代の話しだが、当時デパートと市場以外のほとんどが個人商店だった頃、ミニカーはデパートの玩具売場で買うしか無かった。ちょうどベビーブーム世代も重なってか、エレベーターで玩具売場に向かうと、下の階ぐらいから猿のシンバルやら笛太鼓に機関銃の銃声やら、様々な音がエレベーター内まで聞こえて、扉が開くとそれらが音の洪水だった。今では考えられない風景に違いないが、まったくの子供中心社会である。ショーケース一つ半ぐらいのミニカースペースの隣りが動物のミニチュア売場で、アフリカ象、キリン、ガゼル、サイ、ライオン、虎など、欲しいとは思わなかったが、なかなか良く出来ていた。ミニカーはモデルペットやミクロペットだったが、トヨペットコロナ、トヨエースと買い揃えて行った。外国製は高値の花だったし、車種も解らなかったが、ある日、ソリドのフォードGTが目に焼き付いてしまい、お年玉を持って走って買いに行った記憶がある。¥1,200ぐらいだったと思うが、当時の物価を考えると高級品だ。模型屋は町に二軒あったので、そこでプラモデルを買いあさっていたが、模型屋のおやじは煙たかった。「そんなもん買うんだったら金貯めてこっち買え!」とか、趣旨をねじ曲げられた。我々の間ではクソじじ〜呼ばわれだったが、どこか憎めなかった。個人商店が消え行く社会現象の中、会話も憎まれ口もなく自動販売機がわりの人間がレジ打つ世の中にあって、携帯を前に翳し、親指の運動に集中しながら無防備に闊歩する世の中にあって、その風景は少なくとも私には気持ち悪く見える。
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